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彼女は、部屋の説明をしながら右側にあるドアーの扉を開けた。「後について来てください」と言った。「湯沸かし器」の操作説明である。説明後二つ鍵の付いた、「例」のキ−ホルダ−を手渡した。「夜は何時に帰宅してもOK」と彼女。「バスでダブリン市街に行きます。10時には帰ってきます。遊び人じゃないので・・・」と言うと、彼女は「ほんとうかしら」と言わんばかりに、いたずらっぽく口元をキュッとし目をクリッとさせた。彼女は、「バスの時刻表を見てくるわ」と下に降りすぐ戻って来た。彼女はバスの時刻表を見ながら、「今日は日曜日だから、20分ほど来ないわね・・・・・」と、僕の顔を見て「待ち時間があります、上のバス停に12時10分に到着します」と言った。「バスは時間どうりに来ますか、料金はいくらですか」と聞くと、「時間は正確で料金は1ポンド20ペニ−です」と答えた。「この名刺を持っていて下さい。家の電話番号が書いています、道に迷った時に使って下さい」と一枚の「名刺」を差し出した。それは、クラ−ク婦人のものと同じで住所や電話番号が書かれている。彼女の名前はアンナさんだ。「あなたの名前はアンナさん、いい名前ですね」と彼女の顔を見ると、「そうなのよ、とても可愛くていいでしょう」と目をクリッとさせて部屋を出ていった。 ここも、クラ−ク婦人と同じスウオ−ドと書かれている。僕は海側から内陸側のスウオ−ド来たようだ。バッグにお金、カメラなど入れて1階に降りて来た。時間があるので応接室で新聞を見ていたら彼女が入って来た。家事も終わり、多少時間的な余裕があるのだろうゆったりしている。今は、彼女と話が出来るいい機会だと思い、いろんな事を聞いてみた。「街で危険な場所はないですか?」、「危険な場所はないです。でも、バッグには気をつけてください。バスは空港を経由し30分ぐらでダブリンの中心に着くのよ。終点付近の地図を書いてあげるわ」と、雑用紙に地図を描き始めた。左手で書く女性の英文字の流れはとても魅力を感じる。僕は「アンナさん、その場所を僕のこの地図にマークしてください」と市街図を取り出した。彼女は、その地図を「くるり」とひっくり返して、「ここに止まるのよ」とうれしそうに鉛筆でマ−クをしてくれた。地図を見ると、印はオコンネル通りの直ぐ裏手のようだ。「オコンネル通りの近くですね」と言うと、彼女は「そうよ、よくご存じですね初めてなのに」と誉めてくれた。彼女は外の歩道まで見送ってくれた。「ありがとう」とお礼をすると、「良い日でね」と、胸の前で細かく2〜3度手を振って戻って行った。登り坂のバス停に着いた。待っている人は一人もいない。バス停からさらに北に登って行く道を見ると、すぐ先が坂の頂上のようだ。付近には家はなく、道の両側は林になっている。その道が、空の中に吸い込まれているように見える。「あの坂道の向こうは、何があるのだろうかと・・・」と思いをめぐらした。 日本のように切り立った山並みは見えない。その為、今立っているこの場所が天に最も近い。一台の自家用車がその坂道の頂上から向こう側に消えていった。入れ替えに、緑色のダブルデッカー車の屋根がその空の中から現れた。運手の顔が見えている時間通りの到着だ。乗客はあまり乗っていない。用意していた1ポンド20ペニ−を料金箱に入れた。ダブルデッカ−は一階中央付近に、二階に登る階段がある。それは狭くて勾配がきつく、お年寄りには歓迎されない。一番前の席に座った。バスは彼女の家の前を、さらに中世の城壁の横を通過した。Y字型の三叉路を右に曲がりバス停に停車した。中学生位の3人の男の子と、若いジ−パン姿の女の子が乗ってきた。「街に遊びに行くのかな・・・」と見ていると、男の子達はいちびりながら二階に上がって行った。バス停の道の両側には、20軒ばかり小さいお店が並んでいる。建物は古いレンガ造りが多いく、「古いヨ−ロッパの田舎街」を満喫させてくれる。それらは、二階建ての「間口」の狭いものばかりで洋服屋、靴屋、花屋、それにコンビニ店もある。建物は連棟式で、それぞれの店の境界はレンガや壁の色違いで区別出来る。灰色、茶色、白など色とりどりで、中には「奇抜な」紫もある。壁に木製のカンバンが取り付けられている。字や絵はボードに描かれたものから、凹や凸に彫り込んだものもある。字体は、イタリック体もゴシック体もある。基盤(木製)の色は、緑色、水色、紫もある、中でも緑が最も多い。個人の手作りカンバンで、個性的でしかも芸術的である。日本のようなケバイ、プラスチック製のものは一つもない。 |